兵庫教育大学ひょうごもんプロジェクト研究会
六甲珠のれん
六甲ケーブル下駅
アートは社会に対する様々な可能性を持っています。本作品のプロジェクトは継続的に多様な人々が関わる活動から生まれました。作者は大学の教員、関係者、協力者で構成されたグループです。兵庫県内の産業から生まれた余剰品を造形の素材として使う事で、郷土を知りもの作りの心を育む活動を行ってきました。素材は日本一のそろばんの産地である兵庫県小野市の生産者組合から提供されたものです。昭和の頃にはそろばん作りの技術を使って「珠のれん」が盛んに製造されました。時代の変化と共にやがて見られなくなった珠のれんですが、地域のこどもたちと協力者の力によって作品として蘇りました。
アレクサンダー・ボール
8 by 8
六甲ケーブル山上駅
基盤に設置した、独立して機能する周波数発生器8個が、8つの独立した小さなスピーカーに接続されています。それらは8つの光センサー(LDR)によって、設定した場所の明るさを感知し、周波数発生器が継続的、または場所の明るさの変化と同期して音を変化させます。可聴域の不協和音が聞こえてくる作品です。
アナ・シリング
フランツィスカ・フォン・デン・ドリーシュ
無題(時間)
六甲ケーブル山上駅
待合室の角には、あぐらをかいた男の子が見つめている映像。その横には、暗闇に置かれた目覚まし時計付きラジオのデジタル時刻表示の映像が流れています。非常に挑戦的な永遠に続くような時間が過ぎて行き、何も起こらないなか、ただ待つだけのこの時間は、次第に身体的に時間として知覚されるようになります。
同じく目覚まし時計付きラジオが写っている壁面の写真。露出時間を長く取っているため表示された時刻は、燃え尽きたようになり、見ることができません。時間は、時間を消し去ってしまいました。
ヨハネス・エルマー
レシピ
六甲ケーブル山上駅
作者は文化を探るのは、食べ物を知ることと考え、ブレーメンと神戸のアーティスト交換プログラムで、典型的なドイツの主食:サワードパンを使ってみようと思いたちました。ドイツ文化の基本でありとても重要なサワー種を使った少し酸味のあるサワードパンは、日本における米のような存在です。焼き上げると多くの象徴的な層ができ様々な食材にあいます。この古典的な食べ物の過程を知ることができる作品です。
マリオン・ボーゼン
景観ベンチ
六甲ケーブル山上駅
作者は一年中自転車に乗っています。ブレーメンのウェザー川沿いの同じ道を通勤していて、一人で考えごとができる30分弱のこの時間を大切にしています。川沿いのベンチを時折、数えてみるのですが、何度数えても数が違うと作者は言います。不用品を家の前に置いておくと、必要な人が持ち帰ることができるブレーメンの習慣に倣って、ある晴れた日、作者は各ベンチにいろんな種類の本を一冊ずつ置いてみました。その場ですぐに読んでも、持ち帰るでもよし。ヴェーザー川の遊歩道にある、本が置かれたベンチのスクリーンプリントを作りました。C.A.P.で展示する作品とセットで成立するように考えられています。
シュタイナッカー/ヴィラント
景色
六甲ケーブル山上駅
山をモチーフにしたポストカードの上から撮影されたトラッキングアニメーションです。ノルウェーのフィヨルドにあるマッターホルンのような、他では見ることのできない山の風景を互いに編集で挟み込み、その背後に配置しています。鑑賞者は、カメラが動いている間だけその奇妙なエッジによって、自分が絵葉書の風景の中にいることに気づきます。幻想的な世界は少しずつ変化し、突然、山と山との間に白い峰がどんどん現れ、絵葉書の代わりに真っ白な葉書の裏が見え、新たなパノラマが生まれます。同時に音楽も変化し、個々のシーンが逆に演奏されます。旅は紙の風景の中で終わって行きます。
スザンネ・カタリナ・ヴィラント
12,642 km Kobe/Bremen
12,642 km Bremen/Kobe
六甲ケーブル山上駅
2つの刺繍作品「12,642km」は、ハイキングマップです。六甲山の一般的なハイキングマップも置かれている六甲ケーブル山上駅に、展示されました。2つの地図は、日本の神戸・六甲ケーブル山上駅から、ドイツのブレーメンにあるヘロルドギャラリーまで、また逆のブレーメンから神戸まで、それぞれ歩く道順を示しています。地図はその国の文字の読み方に合わせて読むことができます。神戸からの地図は、日本式に右上から左下にむかって縦に、ブレーメンからの地図は、ドイツ式に左から右にむかって横に読みます。
中村萌
Grow in silence
六甲山サイレンスリゾート
うつろで曖昧な表情で動植物と同化したかのような人物たち。鑿(のみ)跡が味わい深い木彫作品です。美術大学で絵画を学んだ作者は、そこに慎重に彩色を施して立体的な絵画と呼べるような作品に仕上げています。作品には作者自身が投影されていますが、感情を表すのでは無く穏やかな空白が表現されている印象であり、また、鑑賞者に何かを訴えているようにも感じられる豊かな作品世界が展開されています。本展では天覧台会場に屋外インスタレーションも展示しています。併せてご鑑賞ください。
Meet you anywhere
天覧台
髙橋生也
郵便配達夫の夢
六甲山サイレンスリゾート
テレビやインターネット上で日常的に見ているアニメーション。一枚一枚の絵を連続して記録再生する事で絵画に時間を与えていることを思い出す作品です。彩色された手書きの線画で、叙情的でシンプルに抑制された短い物語を作者は数多く生み出しています。その作風は線や色の味わいが心地よく印象的なもので、本作品ではカーテンと女性と郵便配達夫の物語が紡がれています。なお、六甲高山植物園の映像館では庭師の話を上映しています。また、同植物園の夜間開園の期間、日没後に植物の生命力、四季、風を表現した作品が屋外で上映されます。
Gardener’s work
六甲高山植物園 映像館
Garden
六甲高山植物園
☆ザ・ナイトミュージアム作品
内田望
いきもののかたち
六甲山サイレンスリゾート
作者は金属を金槌でたたいて形を作る「鍛金(たんきん)」の技法により主に動物や植物をモチーフにした造形にアプローチしています。動植物には人間には無い個別の優れた能力があり、それが拡張、再解釈されて作品に表現されています。スタイリッシュで楽しく、誇りに満ちた動物たちはどこか古めかしくもあり、素材の特性を活かす確かな技術に裏打ちされた独自の彫刻表現です。
久松知子
われわれの生きるこの世界
イメージの歪みをテーマにした作品です。作者は絵画を学ぶ過程で日本の近代絵画が扱ってきたモチーフや制度に疑問を抱き、身近な事物に題材を求めるようになりました。同時に美術史の流れや権威を日常に引き寄せる作品も多く発表しています。そこでは素朴な画風で著名な人物やリアルタイムな社会状況、作者を取り巻く日常が淡々と表現されています。新しい平面と空間の構成のあり方に取り組んだ意欲作です。
田羅義史
岩の空
記念碑台(六甲山ビジターセンター)
六甲山には数々の巨石があり、伝説や逸話を生み出してきました。作者が着目したのは弁天岩の伝説です。雨乞いにまつわるもので、日照りが続くときに村人は海から鮫を捕まえてきて、その血を岩に振りかけるとたちまち雨が降ったと言うものです。巨石と鮫という不思議な関係の違和感を形にするために、作者は太古に絶滅した巨大な鮫の背びれをモチーフに作品を作りました。作品は通常は白色ですが、紫外線が当たると鮮やかな青に変色します。この青は空の色であり海の色です。そして鑑賞者が光を遮るとその部分が白に戻るインタラクティブな彫刻です。
小林夏音
山と肋骨
記念碑台(六甲山ビジターセンター)
作者は高校生時代から創作に取り組んで来た、若いアーティストです。卒業とともに本展の作品公募に応募、入選直後から制作に注力してきました。もともと「骨」に興味があり、本作品も動物の骨格がモチーフになっています。大型でボリュームがあり、作者のエネルギーが存分に感じられるものですが、日の光を受けると影を伸ばして陰影に変化が生まれその影を道と捉えられるように考えられています。作者は作品の意味について鑑賞者本人が受けた印象で結論を出すべきだと、自由な解釈を求めています。
皆様はどのようにお感じになるでしょうか。
ムットーニ
ギフトフロムダディ 他
六甲オルゴールミュージアム
ムットーニの作品は、人形などのからくりの動きによって物語を表現します。音楽や光の演出があり、時には大がかりな場面転換を伴う動きなどを組み合わせて劇場のような空間を生み出します。また、作者自身が作品の一部となって、口上を加えながら作品の上演を行うこともあります。こうした作品の中で重要な部分を担う音楽を、六甲オルゴールミュージアムの所蔵品であるアンティーク・オルゴールなどの自動演奏楽器が演奏して上演します。作品の場面ごとに選曲作業を行い、作品の新たな可能性を表現することができました。
MATHRAX〔久世祥三+坂本茉里子〕
風のうたよみ
六甲オルゴールミュージアム
作者は、木や石などの自然物とセンサーやプログラムなどのデジタル技術を使用して、鑑賞者の感覚をやさしく刺激する作品を展開するアートユニットです。2013年に続いて2回目の出展です。MATHRAXにとって初の屋外作品で、木々の間に10体の鳥の彫刻が設置されています。鳥の背中に触れると、近くに設置されたスピーカーから様々な音が聞こえてきます。音は六甲山で録音された鳥の鳴き声やアンティーク・オルゴールの音色を加工したもので、触り方の条件が揃うと、鳥の声が変化し、風の音や鐘の音色などが鑑賞者を包み込むように聞こえてくる仕組みになっています。複数の鑑賞者が関わることで新たな音の体験ができるこの作品です。
CLEMOMO
Survivor Grandma
六甲オルゴールミュージアム
作者は各地を巡りながら、出会った古いものや置き去りにされたものなどを素材として作品をつくるアートユニットです。彼らは六甲山の歴史を知るにつれ、環境の変化にも関わらず存在し続けるこの山をタフな存在だと感じました。そこで、長い時間を生き抜いてきたおばあさんを六甲山に重ねてモチーフとしました。このおばあさんは相棒である四つ足の動物に跨って、進んで行こうとしています。生き抜くための知恵と力を備え、力強く前進しようとするおばあさんの姿に、鑑賞者自らの姿を重ね合わせて見て欲しいと作者は語ります。
林和音
アミツナグ
六甲オルゴールミュージアム
作者は、棕櫚縄やPPテープなどを編み込んだものを空間に配置し、空間が植物に侵食されたような光景を作り出します。2015年の本展ではロープウェー山頂駅の使われていないプラットホームに巨大な昆虫の巣を連想させる光景を生み出しました。本作品は、前作とは異なり自然の風景の中に設置され、木々を支えに触手を伸ばすように増殖しているかのような造形を見せています。編み込まれた作品のパーツ同士がつながり、さらに拡張していくようにも見えます。手仕事の集積によって時間をも編み込んだ作品をご覧ください。
土井満治
水糸の庭
六甲オルゴールミュージアム
作者は、石や木、鉄など様々な素材を扱って作品をつくる彫刻家です。しかし、今回の作品は一般的な彫刻のイメージと違っています。木々の間の谷に、建設用の水糸が同じ高さになるように設置されました。見る場所によっては糸によって作り出された架空の平面が見えます。それは水面のように見えるかもしれません。鑑賞者は木道を移動しながら、その架空の面を上から見たり、下から見たり、様々な角度で見ることができます。本作品は、空間を使った大きな彫刻作品と捉えることができます。六甲の自然とその移ろいとともに鑑賞してください。
IVAAIU CITY
鳥たちの舞踊
六甲オルゴールミュージアム
作者は、建築、電子音楽、視覚芸術、造形芸術、舞台デザインなど様々な分野で活動するアーティストが集まって新しい芸術を構想、創造しているグループです。本作品では10体の彫刻が設置され、金属製の細い筒の組み合わせで、鳥が羽を広げた動きのバリエーションを表現しています。また、鳥の姿は日暮れ時に照明に照らし出されると、異なる印象を見せます。周囲の木々に作品の影が映し出され、作品本体の朱色と黒い影とのコントラストが鮮やかに浮かびあがります。スマートフォンのカメラを作品に向けると、ARによって音楽と映像が作品とともに画面内に流れるなど、多角的な鑑賞が可能な作品です。
伏見雅之
過去とはどこか
六甲オルゴールミュージアム
「ザ・ナイトミュージアム~夜の芸術散歩~」の実施期間中に限定して夜間公開される作品です。池の上に、大きな平仮名が6文字立っています。まるでシンプルな彫刻の様に見えますが、期間中の日没後になると照明によって文字が一文字ずつ照らし出されます。順番に読んでいくとそれが一編の詩になっていることに気付きます。「過去とはどこか」という回文でつくられた詩で作者は美術家の福田尚代。この作品は回文がたった6文字の平仮名だけで構成された詩だからこそ成立しました。緑に囲まれた水面の上で光に照らし出されることにより、味わい深いものになっています。
史枝
連なる思い
六甲高山植物園
古布をつかったパッチワーク作品を中心に活動中の新進アーティストの作品です。モチーフは人物も多く、その表情(自身の心情を表現)と古布の風合いが相まって、懐かしく新しい表現が生まれています。古布を使うきっかけは家族に由来するとのことから、自己を起点とした作品であることも注目されます。なお、本展のメインビジュアルには作者が制作したフラッグが使われています。ガーデンテラス会場の自然体感展望台 六甲枝垂れに展示していますのでぜひ間近でご覧ください。レプリカフラッグと一緒に写真撮影も出来ます。
わたしが縫う景色
自然体感展望台 六甲枝垂れ
「わたしが縫う景色」
レプリカフラッグ
谷澤紗和子×藤野可織
木霊
六甲高山植物園
作者は美術家と小説家のユニット。六甲高山植物園の二本の印象的な木 「エノキ」と「マツ」が鑑賞者に語りかける作品です。離れた所にある二本の木には、それぞれ面が取り付けられています。文字も「形」として作品に取り込まれています。さらに鑑賞者が文字を読み込むことで物語性をもつ総体が見えてきます。谷澤は主に紙や陶土をつかって民俗学的、神話的なプリミティブな世界を表現してきました。藤野の小説は日常の生活者の主観に潜む歪みや不穏が表現されています。植物の生命に囲まれ気象の変化に晒される環境で、作品が何を生み出すのかを確認してください。
あとりえナカムラ
爽快な空気
六甲高山植物園
顔の中央に位置する鼻。呼吸を行うための大切な器官です。同時に嗅覚を感じる役割も果たします。本作品はストレートに鼻そのものの造形物が展示されています。マスクの着用を余儀なくされる生活を経験している身には、空気をたくさん吸えそうなこの鼻が羨ましく思えます。そして新鮮な空気、この爽快さはどこからもたらされるのでしょうか。嗅覚以外の心のあり方も関係しているようです。改めて見る形の面白さと共に鑑賞してください。
髙橋匡太
Glow with Night Garden Project in Rokko 提灯行列ランドスケープ2020
六甲高山植物園
「ザ・ナイトミュージアム~夜の芸術散歩~」の実施期間中に限定して夜間公開される作品です。作者は、光を扱うアーティストです。様々な歴史的建造物を光で彩り、光にまつわるワークショップや映像インスタレーションなど、活躍の場は多岐に渡ります。この作品では、ライティングと音楽により彩られた夜の六甲高山植物園の中を、鑑賞者が提灯を持って散策します。色が変化する提灯の灯りと空間全体の光・音楽はダイナミックにシンクロしていきます。今回はオルゴールの音色をポイントに配置して、「光の色」と「音」が紡ぐ小さな空間を鑑賞者と共に作る試みも盛り込みました。作品を鑑賞しながら、自らも作品の一部となる参加型の作品です。
KIMU
green on green
六甲山カンツリーハウス
豊かな自然に恵まれた六甲山。この自然は明治時代以降、人の手によって育まれてきたものですが、もし人が介在しない自然に意識があるとしたら人はどのように見えているのでしょうか。本作品はカモフラージュのために作られた軍用品であるギリースーツを集積して作られています。これを装着すると人は人の目からは自然に紛れ込むように偽装することが出来ます。人も自然の側から世界を眺めるという疑似体験が出来ますが、それは酷くぎこちないものです。自然と人の行いの関係、境界について考えさせられる作品です。
大阪市立天王寺高等学校美術部
大空の海
六甲山カンツリーハウス
100枚のTシャツの集積による作品です。天王寺高校美術部の部員達は普段絵画を描くことが多いのですが、ある日ひとりがTシャツに抽象画を描いたことが本作品の生まれるきっかけになりました。描かれている瑞々しい絵のモチーフは展示場所近隣の風景です。そして遠景として作品を見ると全体に白から青へのグラデーションが生まれていることに気付きます。絵画の集積が六甲山の丘の上に海を出現させました。若きアーティスト達の力作です。
宮木亜菜
机とおなかの歩き方
六甲山カンツリーハウス
パフォーマンス・アーティストとして紹介される作者は、身体と行為を通じて様々な負荷を自己に負わせ、それによって生じる環境や心理の変化を作品としています。作品から日常まで地続きで自分に負荷を掛け続けるのは辛いことですが、作者はそれを修行と似たストイックな行為であると言います。本作品で作者は毎週日曜日に六甲山を巡る「ピクニック」を行います。ここにはそのエッセンスや記録がオブジェとして展示されています。表現の生まれ方、あり方について考えるきっかけとしたい作品です。
早崎真奈美
白い山
六甲山カンツリーハウス
紙の平面性のなかに博物誌的な世界を繊細に表現するアーティストの作品です。切り絵の技法で作られた植物のオブジェを空間に吊す形で集積して白い山が生まれました。ひとつひとつのオブジェは六甲山の植物を取材して表現されています。そしてもうひとつの注目点は白い山の下に広がる石の集積。それらは六甲山の石切場から運ばれた御影石です。紙と石の質感、量感の対比が興味深いインスタレーションとなって空間に余韻を拡げています。かつての岩山が豊かな植物で覆われる山に変化した、六甲山の生い立ちが作品のベースになっています。
田岡和也
六甲景
六甲ガーデンテラスエリア 「リトルホルティ」
神戸を拠点に精力的に街を歩き「身近な風景をコラージュする」作者の作品です。店舗周辺のオブジェから店内の絵画、一部販売品まで全体を作品化するように取り組みました。展示の中心は100枚の絵画「六甲景」です。六甲山とその麓の街々を巡ってその息づかいをビビッドな色彩で表現しています。趣味である登山のモチーフも加えて、独自な作品世界を生み出しました。インタラクティブな要素もあり,じっくり鑑賞して頂きたい作品です。
灰野ゆう
あめふらし
六甲ガーデンテラスエリア 見晴らしのテラス
作者は現在、主に海に住む軟体動物のアメフラシを主なモチーフに制作活動を行っています。解剖図を図鑑で見たことがきっかけで心を奪われ、 実際に飼育や解剖を行って理解を深めていきました。平面から立体作品まで幅広い表現手段を用いて使用する素材も様々ですが、今回の作品はFRP(強化プラスティック)で作られています。ビビッドな色彩の小型作品には腰掛けることが出来ます。ちなみにアメフラシの名前の由来には諸説ありますが、アメフラシが海の中で紫色の液を出すとそれが雨雲のように広がるからという説が有力なようです。
コリー・フラー
Lighthouse
六甲ガーデンテラスエリア 見晴らしの塔
サウンドアート、音楽、映像、写真としてボーダレスに活動している作者が取り組んだモチーフは「霧信号所」です。船の安全のための設備で音の灯台とも言うべきものでしたが、現在、その役目はレーダーやGPSに引き継がれました。下見の際に六甲山の荒天を体験した作者は濃霧の中に佇みこの作品の着想を得ています。現在、世界は困難な状況であり人々はまるで霧の中で迷っているかのようです。作者はそうした人々の内なる心の中にこそ救いの光があると考えました。この塔を霧信号所に見立て、その内部に光を放ちます。波のような低音の霧笛が響いています。人々の連帯と安全を願うのが「霧信号所」の役割です。
上坂直
六甲景鏡
自然体感展望台 六甲枝垂れ
六甲山上にある様々な施設の中から空間を5ヶ所選んで、精巧に縮小、再現した立体作品です。作者はこれまでにも集合住宅の複数の室内を同じアングルで精緻に再現、衣装ケースを利用して展示するなどジオラマやドールハウスの視点を越える作品を発表してきました。人の気配を感じさせ「現実」を作品化することで、私たちの中に眠っている客観的な視点を獲得しようとする意欲的な作品です。
大野光一
あなたを見つける、かなたが見つめる
六甲ガーデンテラスエリア
「私たちは日々沢山の顔に囲まれながら暮らしています。ですが余りに見慣れてしまってその事に無頓着になっています」と作者は述べています。現代は社会でまた家庭で様々な仮面を被って生きることが避けられない時代ですが、素顔で生きていきたいというのが本音では無いでしょうか。作者はその素顔が恐ろしくまた美しいと考え、その感覚がここでは提示されています。2020年は世界中の人々がマスクで顔を覆わざるを得ない状況が生まれてしまいました。この作品は顔について考えてみることが最も必然性を持つ時代に展示されたことになります。
竹内みか
センチメンタルパーク駅-追憶のなかの楽園-
六甲有馬ロープウェー 山頂駅
作品の主なモチーフ、素材として扱われているのはメロディーペットです。一度は乗ったことがある方も多いと思いますが、各地の遊園地が次々と失われて行く中、この遊具も見られなくなってきました。私たちはぬいぐるみや人形に怖さを感じる事があります。そうした怖さとは少し違う感覚が作者の作品からは感じられますが、それは懐かしさから生じるものかも知れません。懐かしく、可愛らしく、切なくて少し怖い、記憶の中の遊園地とその時代の空気感が、私たちひとりひとりの中に蘇ります。心に深く入り込んでくる作品です。
松本千里
やまのかたち
グランドホテル 六甲スカイヴィラ
伝統的な染色技法を学んできた作者は、絞り染めのプロセスで現れる縛られた布の群をひとに見立て、それを作品化しています。本作品で使われている布は園芸用の作業服であり、それが六甲山で伐採された木に配置されています。布のひとつひとつは、林業や園芸業に携わる人を表し、その人々が集まって森が形成されている様子が表現されています。木にはスナップボタンが取り付けられており、鑑賞者は縛られた布を自由に移動させることが出来ます。人が関わることで山や自然が変化するようにこの作品も形を変えます。「未来の山の形は、私たちの行動によって変化していくこと」新しい表現を獲得しそれを追求している作者の意欲作です。
C.A.P. (特定非営利活動法人 芸術と計画会議)
六甲イカスヴィラ
グランドホテル 六甲スカイヴィラ 迎賓館
「六甲イカスヴィラ」は、約10年間使われていなかった建物全体を「活かす」そして「イカす!」小さなアートセンターです。C.A.P.メンバーだけでなく、関連する国内外の多くのアーティストによって構成されるプロジェクト。展示作品の鑑賞に加えてアーティストや観客同士、会話を交わす機会を作ることが目標です。関わった人たちが六甲ミーツ・アート 芸術散歩2020全体を立体的に認識できる機会を作っていきたい、と考えています。期間中の情報更新は、C.A.P.のホームページから確認いただけます。
マギー・ラプアノ
マッチボックス:フリー・アート/ シェア・アート
グランドホテル 六甲スカイヴィラ 迎賓館
マッチボックスを利用した小さな世界は、シェアしてもらうことを目的とした、無料のポケットアートです。鑑賞者は、箱を開いて中を自由に見ることができます。それを持って帰ることもできますが、箱の裏側に書かれたアクションを必ず実行してください。
中村邦生
風狂ハウ巣
風の教会エリア
美術学校に在学していたときから一貫して自己の生活と表現の関係性を追求してきたアーティストの作品です。衣食住と自分の行動の全てが「表現を構成する要素」になる可能性を持っていること。そしてそれぞれが関連しているという仮説を立てて自分との対話を重ねて来た作者は、本作品では他者との対話を試みています。集めた廃材で「巣」を作り、風や雨などの環境音と、自ら鳴らす打撃音などを編集してリアルタイムにノイズを演奏します。タイトルの「風狂」には風雅に徹するという意味があります。表現の大海に小舟でこぎ出した渾身の意欲作です。
山城大督
《Monitor Ball》ver. Rokko
風の教会
教会の内部、コンクリートとガラスに囲まれた大空間に静かに映像が流れています。映像は通常、四角い平面スクリーンの中に表現されますが、本作品では周囲の空間に映像を響かせるように、特別に作られた装置が使われています。六甲山で撮影された自然の移ろいによって、抑制された表現で六甲山と建築の特性を引き出すことに取り組んでいます。今、この環境にある様々な現象に耳と目を傾けてみましょう。
久保寛子
猿文字(風・雨・土)
有馬温泉エリア
2017年、2018年と連続して六甲ミーツ・アート 芸術散歩に出展し、多くの支持を集めた作者が、新しく会場になった有馬温泉での制作に取り組みました。作者は近年、各地で起きる風水害や、人と自然のバランスの変化がもたらした獣害に言及した作品を積極的に展開しています。本作品は私達に身近な存在である猿をモチーフにしました。猿は人に近しい動物ですが、害獣として人々を苦しめる存在でもあります。もとより自然はひとにだけ都合の良いようには出来ていません。そうした猿が群をなして表しているのが「風」「雨」「土」の3文字です。私たちが畏れと謙虚さを持って自然と向き合うべき姿勢を思い起こさせる作品です。
松本かなこ
A2-1.有馬行路
A2-2.有馬の小宿
A2-3.有馬の穏
A2-4.有馬の陽
有馬温泉エリア
路面にチョークを使って絵を描く行為は、イタリアを中心に継承されている伝統的なストリートアートで、作者もイタリアで研鑽を積み、現在は世界各地で制作を行っています。モチーフは人物や草花、噴水などの構造物まで多岐にわたりますが、目の錯覚を利用したトリックアート的な作品も見応えがあります。本展では8月から11月に掛けて有馬温泉に滞在を繰り返し、有馬温泉各所で公開制作を行っています。雨に打たれると消えてしまう切なく美しい芸術です。
木村剛士
戻れない、過去に浸る日もあっていい
有馬温泉エリア
日常の中での存在が空気のように当たり前になったインターネット、作者はその網の目状の構造を「道路」と呼び、そこで出会う多様な事物を作品化していきます。本作品は、有馬温泉の下見体験をベースに、モチーフを掴みました。忘れられたようなテニスコートの荒れた表面を水面に見立ててまるで巨人が湯船に浸かって寛いでいるかのような作品が出現しています。作品の表面の糸は強度を確保すると共にポリゴンのような面の印象を作品に持たせます。またそれはまるでインターネットをまとっているかのようでもあります。気象や季節の変化と共に移ろう環境と共に鑑賞してください。
前田耕平
イトム
JR新神戸駅
六甲ミーツ・アート 芸術散歩2019で神戸市長賞を獲得した気鋭のアーティストが、大量の土を使ったプリミティブな印象をもつ作品を制作しました。自然や人、事物の距離や関係を一貫して考察し、自己を起点として流れ出るように様々な手法や素材を使い分け、作品を生み出すのが作者の特徴です。本作品はタイでの滞在制作の際に偶然手にした護符(お守り)をモチーフに作られていて、困難な時代に何を信じるのかを問いかけているようにも感じられます。作者はこの造形物を会期中に六甲山上へ少しずつ移動させます。六甲山と神戸市街地を繋ぐ、時間と距離を包括した作品です。